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「貧困の終焉」 知っていること,知らないこと 

貧困の終焉―2025年までに世界を変える
貧困の終焉―2025年までに世界を変えるジェフリー サックス Jeffrey D. Sachs 鈴木 主税

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サックスの本.
この本と,以前に投稿したイースタリーの「エコノミスト 南の貧困と闘う」とは,まったくではないものの,ずいぶんと異なった考え方がなされています.
イースタリーがワシントンポストに,サックスの本の書評を書いていますが,僕はサックスよりもイースタリーに共感します.U2のボノも含め,こうした先進国からの同情的な,ある種偽善的な援助姿勢に,僕は共感できません.

イースタリーの記事は以下のURLにあります.
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A25562-2005Mar10.html

以下,僕の意見を交えつつ,イースタリーの考えをまとめてみます.イースタリーは,サックスの本について,
「魅力的」であると同時に,「ひどくいらいらさせる」といってます.
魅力的であるのは,貧困に対するサックスの思いやりの評価.いらいらさせる理由は,サックスの提案する解決策が非合理であることにあるといいます.

サックスの手法は「shock therapy」と呼ばれ,経済改革の問題を全て同時にいっきに取りくんでいくという手法で,旧社会主義国の市場経済化の際に有名になった手法です.
この手法,実は何人かのエコノミストが批判的に捉えています.イースターの他,スティグリッツも急激な市場経済化について,疑問を唱えていました.スティグリッツは,情報の経済学でノーベル賞を取ったことで有名ですが,市場経済がうまく機能するためには,情報に対する非対称性などの問題が無いことをあげています.逆に情報の非対称性が存在するならば,市場経済はうまく機能しないことになる.だからこそ,制度,法律,宗教,道徳が必要なのです.市場経済が機能するためには,ルールが必要だということです.こうした市場経済が機能するためのルールの整備には時間がかかります.それを一切無視して,一気に市場経済化を推し進めたことが批判の対象となっているわけです.

イースタリーは,カール・ポパーの定義を利用し,サックスの貧困を解決する手法を, "utopian social engineering" と述べています.彼の手法は,貧困に対する全ての問題を,もうとにかくなんでもいっきに,同時に取り組むというもの.そして,2025年までに貧困の罠を脱するという.そのためには援助国は,足りない資金を今の4倍融通すれば良いというものです.

サックスの言う,Big planは,科学的な評価も難しく,成功も失敗も評価が困難であり,説明責任も果たせないことになります.
実際問題として,サックスの言うようなBig planが効果があるのでしょうか?実は,サックスのような手法は,以前にも取られていました.経済を大きくbig pushすることで,貧困の罠を脱する.そのためには投資を行う必要があり,投資を行うためには,国内資金では足りないため,その資金ギャップを埋める必要があるんだというものです.投資,そして資本蓄積こそが経済成長の源泉であり,投資を行うための資金援助が経済を貧困から救うのだという思想が開発の世界で広がっていた時代がありました.しかし,現実は違いました.残ったのは,途上国に残る多額の対外債務のみで,貧困の解決には至りませんでした.いやむしろ,今度はその対外債務こそが,貧困から抜け出すために障害となってしまっています.いったい過去50年における2.3兆ドルもの援助とその結果をサックスはどう考えているんでしょうか?

貧困に関する研究者は,多くのことを学んできました.有害な政治,悪い歴史(搾取的な,不適切な植民地主義を含む),民族・地域紛争,エリートによる政治や制度の私物化,汚職,公共サービスの機能停止,警察や軍隊による職権乱用,契約や所有権の軽視,責任を負わず,過度に官僚的なドナー国,などなど.しかしサックスはこれは相対的にたいした問題ではないと考えているようで,とにかくBig Planをしたいみたいですね.援助の多くは,貧困層へとまわらず,ブラックマーケットを通じて,一部の人間の利益にしかなっていない.援助対象国の政府,役人,財界,部族など一部エリートがその援助を享受するだけで終わってしまっているのが現状のようです.

U2のボノという有名人を従えて,貧困の問題を多くの人に知らしめることは,決して悪いことではないと考えます.ボノ,サックスとネームバリューもあり,また貧困を訴え,援助を求める声もマスコミ受けしやすい.しかし,彼のちょっと楽観的にすぎる考え方には,やはり同意できない.サックスは,もしこのBig Planが失敗した時のことを考えていないようです.自分が携わった国,ボリビア,ポーランド,ロシアでのその後の混乱も,無視しているかのようでもある.

ちなみに,サックスに対する,代替的な政策とはなんでしょうか?イースタリーは,先のポパーの言葉を用い,
"piecemeal democratic reform."
といっています.この政策は,社会科学に対してより謙虚な姿勢を取っています.すなわち政治,社会,技術,環境といった複雑なシステムが貧困の背景として存在し,我々はそれら全てをきちんと理解しつくしていないという基本姿勢です.だからこそ政策をおこなっては,その効果を確認し,誤っていれば修正しという試行錯誤を繰り返しながら,すこしづづ取り組んでいくという政策になるわけです.少しずつ介入していく政策のいくつかは成功を見せています.イースタリーは,こうした政策が,乳児死亡率の低下,教育,水,公衆衛生の向上をもたらしたことを挙げています.社会科学において,僕らが知っていることは,やはりまだまだ少ないと思います.経済に限らず,政府の政策は,非常に強力で,僕らの生活に強い影響力をもたらします.だからこそ,謙虚な姿勢で,試行錯誤をしつつ,説明責任を果たしていく必要があるのでしょう.

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